言葉のおもちゃ箱

心を通過した言葉を綴っています

【詩】朝と歯ブラシ

冷たさに慣れた

冬の朝の洗面台

もう1本の歯ブラシはなんとなく捨てられずに

わたしの歯ブラシと一緒にコップの中

 

なにか思わないといけないのかなぁ

あなたがいないことに

わたしはなんにでもすぐに慣れるの

凍てつく指先がなかなかあたたまらなくても

わたしは泣いたりしないの

 

ストーブをつけて

パジャマのままで前にたつ

あなたってわたしを後ろから抱き締めるのが好きだったよね

わたしもそれが好きって知ってたよね

 

なにか思わないといけないのかなぁ

あなたがいないことに

わたしはなんにでもすぐ慣れるの

出ていく前の頃はやたらと後ろから抱き締めてくれたよね

なんでか分かっていたんだよ

 

冬なら雪がいいな

あかるく晴れて鳥が遊ぶような日は

励まされているみたいで嫌だな

わたしはもう慣れてしまってたよ

あなたの横顔も

あなたのてのひらも

少しずつわたしのものでなくなってたこと

あなたがいなくなるずっと前から

 

冷たさに慣れた

冬の朝の洗面台

出かける支度をしてたら体もほぐれて息ができる

鏡の前に立つと目にはいるけれど

あってもなくてもどちらでもいいみたい

あなたの歯ブラシ

だって邪魔にもならないし

 

なくてもあってもどちらでもおなじみたい

なにか思う必要もきっとないよね

 

うなじで今もあなたの息づかいを感じられる