言葉のおもちゃ箱

心を通過した言葉を綴っています

【詩】ゆで卵

どこにも行きたくない

なにも話したくない

ゆで卵ばかり食べて

いつか白と黄色のきれいな体になりたい

体育座りで泣いていたい

泣いたまま眠っていたい

眠ったまま命を消費したい

だけどそれは叶わない

 

誰かと幾千万の言葉を交わしても

誰かと何万回の抱擁をしても

満たされることのない

体のなんて不自由なことよ

卵を取り出して鍋に落とす

水をはって火にかける

ゆで卵ばかり食べて

その清らかな栄養だけで満たされたい

 

君のしずかな声をききたい

きいたまま死んでいきたい

君のあたたかいてのひらを触りたい

触ったまま死んでしまいたい

だけど今日も目は開いて

生きるために卵を茹でてる

君の声もてのひらも今はそばにない

ゆで卵ばかり食べて

体の芯から少しずつ飢えていきたい

 

君だけでいいと言いながら

きょうもまた別の誰かと笑い合う

明後日もまた違う誰かと抱き合う

眠れずにもがいて

狭い小屋でひしめきあうにわとりのことを考えた

夜明けとともに目を覚まし

辛辣な声で鳴くだろう

わたしは冷蔵庫の扉をあけて

今日も卵をひとつ茹でる

 

いつか誰にも聞こえない声で

君にわたしのほんとうを教えたい

ほんとうのうそを

 

ゆで卵ばかり食べて

頭のなかに殻のかけらが散らかっているんだ