言葉のおもちゃ箱

心を通過した言葉を綴っています

【詩】夕闇

夕闇の中で見る君はきれいだ

顔立ちが深くかげって  瞳だけがしずかにひかっている

2時間前に喧嘩したのが嘘みたいだ

今は僕ら

ただ潮騒の中に佇んでいる

 

あと何回争うと僕らは別れるのかな

別れたいから考えてるんじゃなくて

ただの純粋な疑問

君からかすかにオレンジのにおいがする

3時間前に君の指を濡らした雫が今になって香ってくる

朝からずっと海を見たいと言っていたよね

オレンジを食べて喧嘩をしてやっとたどり着いた

2人でいるといろんなことに時間がかかるなあ

1人でいればそんなことはないのに

 

少しずつ夜が近づいてくる

空気も冷たくなってきた

そろそろ帰ろうかと横を向いたら

夕闇の中で見る君がすごくきれいだった

君のイヤリングが風に揺れて

まだもう少しいたいって言っている

急がないといけない理由はない

爪先で砂の上に幾何学的模様をかく

寒くないかなと思って君の腕に触れると

やっぱりひいやりとしている

僕は君の肩を抱いた

腕は冷たくても

君のやわらかな胸はあたたかい

そう言えば  ごめんを言っていなかったなあ

君のぬれた瞳が僕を見上げて

たぶんキスをせがんでいる

君とキスするとすごく長くなる

なぜだかはわからないけれど

いつまでもそうしてられるんだ

そうしていたら夜はどんどん深くなって

きっと君も  おなかすいてきたなって笑うだろう

でもその前にまずキスだ

きれいな君の瞳が閉じられる

 

2人でいるといろんなことに時間がかかるなあ

1人でいればそんなことはないのに

だけど多分あしたも2人でいる

なにせ決めるのにも時間がかかるんだ

2人だから

【詩】オリオン

どんな星座見てもオリオン座だって

言うきみのこと笑ってごめん

でも今は夏だし

空にはアンタレスが輝いてるよ

ほら、あの赤い光

 

星座早見表って昔あったよね

今も売ってるのかな

夏休み  山の上のコテージで

早見表と空を見比べてた

星は好きだよ

小さい頃からね

君はどうだった?

 

違うよ、あれは秋の大三角形

オリオン座じゃないよ

夜空で星占いはできないよ

君っておもしろいよなぁ

もっと降るような星空を見に行こうか

明日も会えるかな?

星は好きだよ

特に君と見る星は

 

誰のこと考えてるの?

最近はよくうつ向いてるけれど

爪先でどんな思い描くの

ダンスは全然得意じゃないよ

だけど君がそうしたいなら僕もそうしよう

ダンスだっていつか好きになれるさ

君が好きなものを僕も好きになる

そんなふうに微笑まないで

これはかなしいことじゃない

 

明後日なら会えるかな?

言えないことだらけの毎日なら

少しだけの言えることを持って来てよ

横顔じゃない君が見たい

暗闇で揺れる君の瞳に星をあげたい

込み上げた言葉をだけど僕は飲み込んで

黙って空を見上げた

 

来週には会えるのかな

 

来月にはどうかな

 

どんな星座見てもオリオン座だって

言うきみのこと笑ってごめん

やがて本物の冬がやってきて

さわれるくらいつめたい星座がひろがるだろう

 

ほら、あれがオリオン座だよって

教えたくて左手をあげたけど

あたたかく小さな君の肩はもうそこにはない

 

どんな星座見てもオリオン座だって

言うきみのこと笑ってごめん

星座早見表買ったんだ

いつでも君に教えてあげる

山の上のコテージで、いつか

 

星は好きだよ

君はどうだった?

 

【詩】夏の夜

字が書けてよかったなぁ 君に手紙が書ける
君が永遠に読むことのない手紙だけど
ペン先が心をなぞる音をきいたことがあるかい?
夏の夜に静かに紙にむかう

文字が書けてよかったなぁ 口では決して言えない
君が永遠に読むことのない手紙だけど
書くことに意味があるんだって分かったような顔して
年老いた誰かが言っていそう

例えば君が笑ったらうれしくて
そのうれしさをどうやって表現したらいいんだろう
そんなに早く言語化できない だって
これまで感じたことのない気持ちさ
あかるさとつめたさと ほんの少しのやわらかさが
絶対的な光をまとって僕の心の真ん中にあらわれる
それをすぐに君に伝えるなんて
そんなこと誰ができるだろう?

すてきなことはどんどん口にしなさいって
年老いた誰かが言ってそう
でも伝えても伝えても伝えても
君の目がこちらを見ていなかったらどうだろう
君の君らしい形をした耳が
もしも他の誰かの声のためにあったとしたら
僕はどうすればいいんだろう
夏の真昼は僕には痛すぎる
だから

夜になってペンをとる
ペン先が心をなぞる音をきいたことがあるかい?
どんな思いだって言葉にしてやろう
今ならば

字が書けてよかったなぁ 君に手紙がかける
君が永遠に読むことのない手紙だけど
不恰好な僕の字でも今ならばいいだろう
まるで僕自身みたいだ
まるで僕自身みたいだ